新幹線からのエール

自分の学歴は高卒です。

特に大学に行こうとか、専門学校に行こうとは思わなかった。

家が裕福ではないという、理由を勝手に自分で思って進学という選択肢を考えようともしなかった。

就職は田舎でできたらと思い。田舎の家電量販店になんとなく試験にいった。
テストがあり、散々の結果だ。英語なんて3問ぐらいしか答えが書けず、正解さえ自信がない。
結果はもちろん不合格。当たり前だ。

試験が落ちてから、いよいよ焦り出し、進路指導の先生に相談に行ったものだ。

普通科の特に何の特技もない生徒だ。
恥ずかしくて言えないが一太郎検定を2級持っていて、ほんの少しパソコンに興味をもっているぐらいだ。

専門学校にも行ってないし、専門的な知識もない。

何の進展もないまま時間が過ぎ、他の人は進路が決まっているころ、ただ一人呆然としていた。

そんな時、進路指導の先生から、この会社に行ってみないかという話があった。

その会社は今も務めている会社なのだけれども、そこで情報処理の人材を募集しているということだった。

なんでこんな田舎の普通高校に募集が、来ているかというと会社の重役に地元の人がいて、その伝手で募集が来ているのだ。
自分はこんな願ったりのことはないと、履歴書を送ったのだった。
結果、合格するのだけれども、簡単に言うとコネで入ったようなものだ。その人がいなかったら、きっと農家か、土木の日雇いの仕事で一生を終わっていただろう。

その重役の人は、地元に何か役に立つことはないかと思い。その一環で地元の高校に募集をだしていたのだ。
まったくの役立たずが来ても、いやな顔せず迎えてくれた。
この人がいなかったら、奥さんとも出会わず、結婚することもなかっただろう。

今の生活はなかったかもしれない。
感謝せずにはいられない。

試験の日、新幹線に乗って上京したのだけれども、新幹線のABCの座席のBの席で、体を小さくしてのっていた。体が大きいから余計に。

そんな時、隣に座っていたサラリーマンの男性に声をかけられた。話の中自分がこれから就職の試験のために上京していること。

実は東京で働くことをとても不安に思い、できることならば辞めたいことを話した。
なんで見ず知らずの人にそこまで話したのかは覚えていない。けれど不安だったのだろう。少しでも話したかったのかもしれない。

するとサラリーマンからは東京に出ることはいいことだ。
ものの考え方が変わるし、ものの見方も変わる。田舎にいると考えに行きづまり偏った見方しかできない。
私だったら東京で働くことに賛成だね。

今思えばかなり考えの偏った意見だけれども、その時は真っ暗な海に船を出そうとしている、少年を勇気づけたかったのかもしれない。
その人の顔はまったく覚えていない。
どこのだれかもわからない。

SNSの普及する前、見ず知らずの人と知り合い、悩みを話し、その悩みに勇気づけてくれるなんて奇跡そのものかもしれない。
きっとその時が自分のターニングポイントになったような気がする。

もう会うことのできないあの人は誰なんだろう。

きっとそれは20年後の自分だったのかも知れない。

もちろんタイムスリップできるわけはないので、別人なのだけれども。

もし自分が新幹線に乗っていて隣にそんな高校生がいたならきっと勇気づけるだろう。

20年前にしてもらったことと同じように。