親子のご飯

健太はひとりで図鑑を読んでいた。

健太のお気に入りの図鑑だ。

他に最新のゲームだって、タブレットでアニメだって見れる。

ゲームもタブレットもバッテリーが切れていて電源が入らない。だから遊ばないのではなく、遊んでいないのだ。

いつもひとりで図鑑を読んでいた。時間は夜の8時30分を回っている。

両親は今日も仕事で帰りは遅い。

ガチャ。家のドアが開く。健太は走って玄関に走っていた。

「お母さん。お帰りなさい!」

母親が帰ってきた。その10数分後父親が帰ってきた。

やっと晩ご飯が始まる。ご飯と言ってもスーパーのおつとめ品で、割引シールが貼られている。

母親は疲れていて、電子レンジで温める気力もない様だ。

冷たい。コロッケに、焼き魚。固くてご飯だったのかもよくわからない。

父親は席に着くなりスマホを見て、会社とチャットをしていて正面だって見ていない。母親は明日の仕事を考えているのか、上の空だった。

健太は「いただきます!」ご飯を食べ始めた。

いつもの光景だ。

父親のスマホは着信を伝える音が鳴っている。

健太は何ひとつ言わずに食べていたけど。

健太は元気に言った。

「やっぱり、みんなで食べるご飯は美味しいね。」

父親はハッとした。スマホにすまん。今日はあがる。と入力してスマホの電源を切った。机の上に置くと。

「健太。ご飯食べたら一緒に風呂入るか!」

「うん!。」健太は嬉しそうにコロッケを頬張る。そんなに急いで食べたらこぼすわよ。母親は微笑んで言う。

お風呂の方から健太の笑い声が聞こえてくる。

母親は健太が置いていた、絵本を手に取って片付けようとした。

手に取ってハッとした。ページをめくるところ、背表紙の絵柄が取れて白くなっている。

この本は何回、どれだけの時間、手に取られめくられていたのだろうか。

母もこの本を買ってあげたのがいつだったか思い出せない。そっと本を本棚にしまった。

ため息をひとつつくと立ち上がって、台所に向かった。

お風呂からふたりが出てくると、母親は父親に先ほどの絵本を見せた。

父親は何も言わずに、母親の顔を見る。

両親は言葉にしなくても、健太にどれだけ寂しい思いをさせていたのか。気づく事になった。

双方で話し合い、1時間いや。30分でもいいから早く帰ってきて、健太と話をしようと決めたのだった。

土曜日。

一面に花が咲いている丘に、親子3人がいた。

健太はお花が好きで、図鑑を見ていた。

「あのお花は」。興奮気味に両親に説明している。

両親とも花がこんなに綺麗だったと心から思えるのが今回が初めてだった。どれだけ自分たちも荒んだ毎日を送っていたのか。気付かされた。

帰りに、本屋さんに寄って新しい図鑑を買う事にした。

健太はまた、お花の図鑑を持ってきた。

父親が、こっちの働く自動車の方が面白いんじゃないかと言ってもこれがいいと言うので買う事にした。

なんて、見ないうちに優しい子に育ってくれたのだろうか。

両親は思った。

それから。

この家庭で変わる事があった。

新しく買った図鑑は、開かれることがなく本棚にしまってある。

健太がひとりで読むことはなくなった。

なぜならその必要がなくなった。

子供のひと言で変わったのだった。

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