原田マハさん 楽園のカンヴァス

原田マハさんの楽園のカンヴァスは、自分の感覚ではフィクション、ノンフィクション、フィクション、ノンフィクションで物語が進んでいき、ノンフィクションは史実に基づいているため、まるで全てがノンフィクションではないかという錯覚になり物語に吸い込まれて行きます。

この絵画ミステリーは絵画に詳しくなくても、画家アンリ・ルソーを知らなくても愉しめる本です。

物語は(奥付け参照)

ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに籠めた思いとは。

『ネタバレあり注意』6章節からなる古書を一日1章節ずつ交互に読んでいく。講評の7日目までにティム・ブラウンにさまざまな思いを持つ人物が接触してくる。そして6章すべて読み終えた二人。7日目の講評の日。ティム・ブラウンは早川織絵を庇う事により窮地に立たされる。だがそこでティム・ブラウンが最後に切った、鋭くそして温かく包み込むカードとは。

この物語には沢山の絵画が登場します。(自身もどんな絵画かネットで調べながら読みました)物語の中心になっている。アンリ・ルソー最高傑作『夢』

画家自身この作品のために作った詩

甘き夢の中 ヤドヴィガは やすらかに眠りに落ちてゆく 聴こえてくるのは 思慮深き蛇使いの笛の音 花や緑が生い茂るまにまに 月の光はさんざめき あでやかな調べに聴き入っている 赤き蛇たちも(p49)

ニューヨーク近代美術館 所蔵 「夢」

アンリ・ルソーは世間の揶揄や嘲笑に耐え、自分の画法を貫いた画家。死後70年以上も経ったいまでも、評価が定まらずに「税関吏」と呼ばれ続けている。遠近法も知らぬ日曜画家、といまだに言われている。(p368)

ここで話は変わるのですが、YouTubeで山田五郎さんがアンリ・ルソーについて解説している動画があるのですが、それを見て改めてアンリ・ルソーは絵が下手上手いという事が分かり、本の物語とは違う(実際の)アンリ・ルソーが分かりました。下手という事よりもアンリ・ルソーが愛おしい存在に感じました。山田五郎さんは問題作(下手上手い)と言ってやはり少し揶揄していました。

不思議な風が絵の中から吹いてくる様だった。いや、風ばかりではない。熟れた果実の香り、獣たちの遠吠え、名も知らぬ花々の花弁を揺らすミツバチの羽音 さまざまなにおいが音がこの楽園には満ち溢れている。そして、赤いビロードの長椅子に横たわる裸身のヤドヴィガ。その充ち足りた横顔はいまにも語りかけてくるようだった。(p396)

読了してまさしく「夢をみた」かの様に脳に残り、少し重さを感じる作品でした。少しずつ頭の中が整理されていく事によりこの物語の素晴らしさを感じたのです。

この「夢をみた」の題材、「夢」はニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されている。

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