忘れていたのは自分だけ

お客さんの所に出かけた時、1階のエレベーターホールで昔のお客さんに会った。

最近は話をするどころか、挨拶もすることがなくすれ違っていたけど、その時は、なぜか目が合って会釈をして挨拶をした。

相手も軽く会釈をする。

相手にとってみれば、自分になんか挨拶することは必要がない。

それぐらい疎遠になっていて、何よりその人はかなり偉くなっていて自分のような人間を相手にすることは必要ないからだ。

それでもエレベーターに乗ると雑談をする。

たわいもない話に昔の感覚が少し戻ったような錯覚を覚えた。

エレベーターを降り分かれる。変わってなかった。その人は。

別の日。別のお客さんの所に出向いていた。

その人はとても親しげに話してくれる。

そしてこんなことをいう。

昔。〇〇部署にいましたよね。AさんとかBさんと一緒に仕事しましたよね。

自分ははっとしてしまった。昔の知人なのにすっかり忘れてしまっていた。

確かにもう20年近くも昔の話なので無理もないかもしれないけど、そのお客さんは、自分のことを忘れないで覚えていてくれた。

前後の2人は自分のことを覚えていてくれた。

どんなに偉くなっても、どんなに昔の縁であっても。

忘れていたのは、自分の方で勝手に見構えていた。

今思えば失礼な話だ。

忘れていたのは自分で、わかってしまったのも自分だった。

大切なことを思い出させてくれた。2人でした。