会社で午後になると大雨の影響で、土砂災害のエリアメールが3、4回なっていた。
今はメールが来るので危険を知らせてくれるけど、10年前はそういうのがなかった。
10年前、朝から雨が強く、台風が近づいていた。
ある仕事である公共機関に仕事に出向いていた。いつも担当している社員が休暇を取っているのでピンチヒッターで行っていたのだ。バイトさんを10人抱え、チェックをしたり、質問に答えたりと忙しくしていた。
窓がない部屋だったので、外の様子が気になり度々見に行っていた。
結構風も強くなり、いよいよ天候が悪くなってきたので午後からバイトさんは帰らせようと思い、お客さんの担当者に相談に行った。
担当者は少し変わっている人で、相談しづらかったかけど思い切って言ってみた。
台風も接近してるので、午後早く切り上げようと思いますと言って返ってきた答えに唖然とした。
返ってきた答えが、早く終わるなら契約と異なるので、契約金から減額します。
一瞬、返答できなかったけど、とりあえず会社に確認します。とだけ言って部屋に戻った。
アルバイトさんたちは、黙々と一生懸命作業はしてくれていた。
普通だったら、台風に浮き足立つことだろう。
席に座ると、どうするべきか悩んでいた。
バイトさんの安全を考えると、早く帰らせるのがいいのに決まっている。
でも、契約金を減額されるのはあってはならない。
頭を抱え込んでしまった。
担当者に確認しようにも休みでいない。
会社に電話をかけようにも、上司はいない。
まさに自分で判断するしかなかった。
午後の作業も始まり、バイトさん達は黙々と作業している。
時間だけが過ぎていく。
2時が過ぎ、それでも判断を下せなかった。そうなると、もう仕事が手に着かない。
いろんなことを考えて悩み、3時前に決断した。
バイトさんを帰させよう。
仕事を切り上げることを、担当者に伝えに行った。
担当者は今回のことは、日を改めて、金額等打合せしますからと言われ、かなりへこみながら部屋に戻った。
部屋に戻り、バイトさん達に遅くなって申し訳ないけど、今日の作業は終わります。と伝えた。
バイトさん達も台風酷いかなとか、電車動いているかなとか。口々に言っていた。
かなり、後ろめたさがあり皆一人一人に気をつけて帰ってと声をかけ、自分も帰路につく。
雨風は強く、駅に着くまでびしょ濡れになったけど、電車はまだ動いていた。
良かったと思い乗ったものの、何駅も進まないうちに、車掌のアナウンスで風力が警戒基準を越えたので、運転を見合わせますとアナウンスがあり、電車は動かなくなった。
気持ちは後悔で苦しくなった。
あと、2時間、いや、1時間早く判断していれば、バイトさんは家に帰れたかもしれない。みんなのことが心配になったが、もうどうしようもできない。
自分も帰宅困難になっている。
その時、車掌のアナウンスで今止まっている駅から主要駅までバスがあることを教えてくれた。
らは
すがるように大雨の中外で待ちやっと来たバスに乗り込んだ。
外は雨風がさっきより強くなっていた。
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バスは途中強い風で揺れながらも進んだ。
無線では○○道路は倒木で道がふさがれているから注意するようにとか、緊張した声が何度も聞こえてきた。
何とか主要駅に着き降りると、前に進むのも大変なぐらいの強風だった。
駅は電車が止まっているため、立ち往生の人で溢れていた。
それでも奥さんに電話で状況を説明すると、もう帰ってくるのは諦めてホテルに泊まれという判断だった。
でもその当時、スマフォがないため調べようがない。
すると奥さんが何件か電話してあいてるホテルを見つけてくれて電話をくれた。
何とかホテルにつく頃には、さっきまでの雨風が嘘のようにおさまっていた。
でも帰ることもできないので、そのまま一泊することになった。
次の日、また現場に行き部屋で待ってる、自分は出勤してくるバイトさんに一人一人、帰れたか聞いて謝っていた。
中には3時間ぐらい電車の中で待った人もいた。
本当に謝るしかなかった。
それでも帰ってくる言葉は、逆に帰れましたと心配する声だった。
自分がホテルに泊まったことを言うと、大変でしたねと逆に言われるぐらいだった。
今日まさに、10年前のあの出来事が頭をよぎる。
今の事務所は管理職が別も場所にいるので、いない。
この中では自分が一番役職が上だ。でも、所詮管理職ではないので、勝手な判断はできない。
雨は降っていないので、本社から早く上がる指示はでていない。
でも、場所が違えば雨も降ってるだろうし、川も増水していれば、川にかかる鉄橋のある電車では止まる可能性もある。
自分は一人一人に、定時に帰れるか聞いて回り、なるべく早く帰るように勧めることしかできなかった。
どうしても、残業しなくてはならない人が居るので、まだ残っていたけど、帰ってもいいですと言ってくるので、帰れなそうならタクシーを使うようにと言って帰ってきた。
結局は、10年前と変わらない。
無事に帰れることを願うことしかできなかった。