ゲストアシスタンス

俺はずっと前から気になっていた。
ひとりの女の子。
いつもパレードもショーも端っこで見ていた。
気になるのはそれだけじゃなかった。
女の子は笑っているが何か違う、そう。簡単に言うと心から楽しんでいない。笑顔が強ばっていた。

ある日のグリーディングの時、列から外れてあの子が列に並ばずこっちを見ていた。
ゲストと写真を撮り終わった頃、俺は少女の方に歩いて行っていた。
キャストに何で並ばないのか聞いてほしいと小声て伝えた。
キャストが女の子に話かけようとしたら、後ろからたぶんお母さんと思える、女性が出てきてキャストに話してきた。
この子、心にハンディキャップがあって、人混みや、列に並ぶことができないんです。
そうだったのか。それでいつも離れてぽつんと居たのか。
母親は続けて心のハンディキャップはほかの方ほどわかりやすくありません。
見た目では判りづらいんですよ。

そうだったのか。
せっかく来たのだから楽しんで帰ってほしい。
俺はキャストに向かって長細い、四角形を手で作ってアイコンタクトした。
キャストは2、3回頷くと母親に向かって、
お母さま、ゲストアシスタンスカードをご存知ですか。
母親は何回か横に振って、いいえ。知りません。
キャストは俺の方を見てから、母親に説明し始めた。
何らかのハンディキャップをお持ちの方のために、このゲストアシスタンスカードはあります。
例えば何らかの障がいのため、列に長く並ぶことが困難な方は、事前に申し込みをしていただくと、カードが発行されます。
そのカードをお持ちになって、アトラクションに来ていただくと、待ち時間は変わりませんが、同じ時間をすぎますと、直ぐにアトラクションにご乗車いただけます。
一度アシスタンスを利用中は、ほかの乗り物には同時に利用できませんが、待ち時間は自由に過ごしていただくことが可能です。
90分の待ち時間の場合、90分ご飯を食べて過ごされてもいいですし、可能であればショーを見ていただいてもかまいません。
90分後に来ていただければ!直ぐにご乗車いただけます。
母親は驚きと言うより何か救われたような表情を浮かべていた。
どこに行けば。
メインストリート・ハウスへ。
キャストはマップを広げると、指を指して説明していた。
説明を聞き終わると、母親は頭を軽く下げ子供の手をつないで歩いていった。
俺たちは暫く眺めていたが、キャストが時計を見て声を挙げていた。
次のパレードまでもう時間はなかった。
慌ててバックヤードに下がっていった。

シンデレラ城の廻りはゲストの笑顔で溢れていた。
俺はゲストに手を振りながら、ある光景を見ていた。
さっきあった女の子は、母親の手をグイグイ引っ張りながら、スペースマウンテンの方を指で指していた。振り返り母親を見るときの笑顔は、さっきあった女の子とは別人だった。
あの子あんなにすてきな、笑顔になるんだ。
俺は心の中でおもった。
もう大丈夫。
少しの手助けで人は大きくなれる。
女の子も何かのきっかけになってくれたらうれしい。

俺はステップを踏んで一回転すると、ゲストに向かって大きく手を振ってた。
そこにはゲストの笑顔が溢れていた。
俺の鼻はいつもより鼻が大きく上下していた。