「チョット待ってよ!」
僕は思わず前を自転車で走る人物に声を投げた。
自転車は小さなブレーキ音とともに止まった。
「なによ。走っても行けるって言ったのそっちじゃない。」
自転車はUターンして来て僕の前に止まった。
「もうだらしないな。ほら。後ろに乗るから自転車こいで。」
僕は自転車のハンドルを受け取ると、彼女は後ろの荷台に座った。
「違うよ。美夕が走るのが早いんだよ。」
美夕はそんな抗議の声も聞こえないふりをしていた。
「早くしないと。卒業式に遅刻しちゃうよ。」
「元を言えば、美夕が。。」
「そんなことより。ほらほら早くこいで。」
僕は納得のいかないまま自転車を走り出した。土手の道にはもう春が訪れていた。
暖かい天気なのに、僕の気持ちは切なかった。
僕たちは同じクラスメイトで、沢山の思い出を共有して、時には付き合っているみたいと。大袈裟にクラスメイト達の噂になったこともあった。
その度に美優はしかめっ面をして言った。
「私たちそんな関係じゃないのにね。」
でも、同じことを話して、同じ空間を共有してたわいもない事で笑って僕たちは二人の世界を大切にして来た。
その世界は決して誰にも触ることも壊されることもできない世界、それは空のように広くそして温かかった。
風が僕たちを通り抜けて行った。走り出した僕たちは風になって今という時間と空間を走り抜けていく。
数年後。。。
「次は。新宿。新宿。お出口は右側です。」
電車のドアが開いて人々が降りていく。僕もそのうちの一人で無言で降りていく。誰も寄り添えず。一人で生きていく。
それが僕の今の日常だった。
変わらない毎日。コンビニを出ると家への帰り道を歩き出す。交差点で信号を待っていると丸い窓の家が見えた。その建物もいつもと変わらなかった。
でも、今日は月が丸い窓に映り込んで変わった形の三日月になっていた。信号が青になった。薄汚れている窓の月は消えて見えなくなった。僕の気持ちも薄汚れていて、自身に嘘をついて生きていた。
美夕の事を思い出していた。卒業式から会っていない。あんなに空間を共有していたのに、それは今は跡形もなく、なくなっていた。そして、僕は一人眠りについた。
夢を見た。美夕は放課後の学校で窓辺で音楽を聞いていた。窓から風が入って来て彼女の髪を揺らしている。彼女が決まって聴いているのは、「ロビンソン」思い出の歌だった。
僕が隣に立つと驚いてこちらを見た。
「ビックリさせないでよ。」
彼女はしかめっ面をして僕の肩を叩いた。
「久しぶりね。どうしてた?」
美夕が僕に聞いて来た。
「薄汚れている人生を送っているよ。」
「何それ?」
美夕が微笑みながら僕の方を見ている。僕も美夕の方をぎこちない笑顔で見た。
二人の沈黙。そして、二人だけの世界。
あの頃の二人に戻れたらどれだけいいだろうか。生まれ変わる。そんな事を僕は思っていた。
美夕はまた窓の外を見た。
美夕がそっと僕の手に手を添えて来た。僕は握り返した。
寄りそって二人で窓の外を見ていた。二人だけの世界。
その世界は決して誰にも触ることも壊されることもできない世界、それは空のように広くそして温かかった。
僕たちはあの日に空まで二人の気持ちを押し上げてたいた。
どんなところでも、その時の事を感じて共有できる。
空の風にのって、僕たちの世界を流れていく。
そう。風になって。
いかがだったでしょうか。
沢山のアーティストにカバーされている。スピッツの『ロビンソン』を自分の解釈で物語にしてみました。
書き終えて思いました。自分で書いたのに切ない。
でもなんで今、ロビンソンなのか。YouTubeでたまたま観た動画にロビンソンのカバー曲が流れていました。いいなーと思って。曲を集めました。
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このプリセット。自分で見ても変態です。
どれも同じ曲ですが、全て違います。おすすめは森 恵さんです。
一番自分のイメージに近い気がします。
よかったら聴いてみてください。
そして自分のロビンソンの世界で風になるのもいいのでは。