電車の中の紳士

いつもと変わらない満員電車に揺られて、外の景色を眺めていた。

そこにある会話が。

「この電車は新宿駅に行きますか。」

唐突にその男性は周りの人に尋ねていた。

それに反応した様に、女性が「新宿に行きますよ」と言ってから思いついた様に「都営線の新宿に行きますよ」と言いなおしていた。

確かに今自分が乗車している電車はちょっと特殊で『笹塚駅』と言う京王線の駅から京王線の新宿駅と、都営新線の新宿駅に向けて運行されます。そして、今乗っているのがまさに都営新線にいく電車。

尋ねた男性は、あわせて言います「新宿駅から東京駅に行きたいのだけれど」

先ほどの女性は新宿に行きますけど、都営線新宿です。おそらく尋ねた男性は、新宿駅と都営新線新宿駅の差は理解していないだろうと自分でも理解できた。

そこにやや割って入る様に別の男性が、「笹塚駅で乗り換えれば新宿駅に行けますよ」と補足する様に話しかける。

尋ねた男性は、理解はしているが実際はどの様にすればいいのかわかっていないと想像できた。

するとその男性は。ちょうど笹塚駅に着いたタイミングで「向かいの電車に乗り換えれば新宿へ行けます」

フォローの言葉を付け加えていた。

そして、電車は笹塚駅に停車してドアが開く。

男性が降りるタイミングで、フォローした男性は。

「お気をつけて」

自分にとってはその言葉が、優しさを通り越して意外にも思えた。

東京の満員電車の大人は、みんな疲れた疲れた。と思って電車に揺られている。その中。

親切に声をかけた男性に、「お気をつけて」と付け加える事ができる大人がいる事に驚いた。

その言葉に自分の中で、朝の通勤時間が少し清々しく感じた。

通勤電車の紳士は今日もどこかの会社に通勤しているだろう。